私的整理の手法

私的整理による事業再生には,どのような手法があるのでしょうか。

1 リスケジュール

返済期限を延ばしてもらうなどして,返済条件を緩和してもらう手法です。

金融機関への返済の負担が軽減されるため,資金繰りに余裕が生まれる点にメリットがあります。

もっとも,返済条件を緩和してもらうだけで,負債の額は変わりませんので,企業の財務を改善する効果はありません。

そのため,一時的に業況が悪化した場合など,かなり早期の事業再生において利用されます。

逆にいえば,債務を減らすわけではないので,金融機関にも協力を求めやすい手法であるといえるでしょう。

もっとも,リスケジュールで事業再生を図ることができるケースは,ある程度限られてきます。

① 実態貸借対照表上,実質債務超過でない場合

② 実態貸借対照表上,実質債務超過であるが,5年以内に実質債務超過が解消され,かつ,5年目における債務償還年数が10年以内である場合

に,リスケジュールによる事業再生を選択するのが一般的です。

したがって,財務内容が上記②以上に悪化する前に,専門家に相談するべきです。

2 DDS(資本性借入金)

既存の債務を劣後ローンに変更し,一定期間,返済の猶予を受けられるようにする手法です。

劣後ローンは,他の借入金よりも返済が後回しになります。

既存の債務の一部について返済を後回しにすることによって,資金繰りを改善するメリットがあります。

もっとも,金融機関からすると回収できないリスクが高いことを意味しますので,金利が高くなるのが一般です。

しかし,中小企業再生支援協議会の支援を受ける場合には,事務コスト相当の金利設定を可能とする「協議会版資本性借入金」が商品化されています。

3 DES(債務の株式化)

既存の借入金(の一部)を,株式にすることをいいます。

株式にすると,借入金の返還義務がなくなり,資金繰りが改善するメリットがあります。

しかし,中小企業の私的整理の手法としてはほとんど活用されていません。

上場企業の株式ならいつでも売却できますが,非上場の中小企業の株式を取得しても実際上換金できず,金融機関にとってメリットがないからです。

4 債権放棄

過剰債務をカットしてもらいます。

資金繰りが改善するのみならず,負債が減少するので,財務の抜本的改善につながります。

実質バランスシート上の債務超過額を過剰債務としてカットする方法と,

企業のキャッシュフローから返済可能額を算定し,返済可能額を超過する部分を過剰債務としてカットする方法とがあります。

もっとも,債権放棄を受けると,企業には債務免除益が発生し,課税の対象になります。

債権放棄をした結果,企業が課税され,納税のために資金繰りが悪化するということになれば,金融機関にとって,その債権放棄は経済的に合理性がありません。

そのため,債務免除益については,繰越欠損金で相殺することを検討します。

もし,債務免除益を全額相殺できるだけの繰越欠損金がない場合には,利用可能な繰越欠損金の額が,債権放棄額の上限となるのが通常です。

地域の中小企業にとっては,正面からの債権放棄はなかなか応じてもらいにくいのが現状といわれています。

5 第二会社方式

収益性のある事業を,受け皿となる新会社に移し,もとの会社(旧会社)は特別清算か破産により清算します。

新会社に事業を移す方法には,事業譲渡と会社分割とがあります。

収益性のある事業を移すわけですから,当然,対価が必要です。

スポンサーがある場合には,新会社は旧会社にお金で対価を支払います。

旧会社が受け取ったお金は債権者に対する弁済にあてられ,旧会社の負債は清算されます。

新会社は,事業価値に見合うだけの対価を支払った後は,旧会社の負債を引き継がず,事業を継続できます。

スポンサーがない場合には,新会社は,事業の価値に見合う額だけ旧会社の負債を引き継ぎます。

旧会社の特別清算または破産により,過剰債務は消滅します。

スポンサーがつく場合も,つかない場合も,新会社は事業価値に見合う額のみ負担し,過剰債務を免れることができます。

この方法は,実質的に債権放棄ですが,金融機関の了解を得やすいといわれています。

また,債務免除益課税に頭を悩ます必要がありません。

債務免除益が生じるのは旧会社であって,その旧会社は特別清算または破産により清算するからです。

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